Hanes fik

スウェーデン語の語源やら、読書のことやら、あれこれと。

老人ホームの民営化

2011年10月から2012年春ごろまでスウェーデン社会を騒がせた問題に 「カリーマケア Carema Care・スキャンダル」がある。 スウェーデン語版ウィキペディアでも記事になっている。

民営の老人ホームの入居者のおむつが濡れたまま何時間も取り変えられないことが 職員の内部告発で明らかになった。また、食事が困難な高齢者が きちんと職員に世話されないため衰弱死するという事件も起こった。 この老人ホームを運営するカリーマケア社(現在は社名変更して ヴァルダーガ Vardaga)がおむつ代や人件費を削減したことが原因だと 厳しく批判された。 カリーマケア社は2005年からアメリカのベンチャーキャピタルの子会社に なっており、スウェーデンであげた利益の大部分が海外のタックスヘイブンに 送金されていることも報道された。

民営化のやりすぎだと思っていたら、ラジオのニュースでこんな 報道があった。2012年1月13日、Sveriges radio

老人ホームの民営化-質の向上なし 老人ホームを民営化したら質が向上すると考える人もいるが、それを裏付ける証明はない。ストックホルム大学でソーシャル・ワークを研究するマルタ・セベヘリ教授の報告を紹介する。

「老人介護を競争に晒すと質が向上するということを証明した研究を、私はまだ見たことがありません。民営化すると公的機関を刺激し発展させるという期待が大きいのですが、そんなことは現実には起こっていません。」

1991年にコミューン法が改正され、民間企業が老人介護に参入できるようになった。そして現在ではスウェーデンの老人介護の5分の1が民営化されている。ストックホルムでは60%の家庭サービスおよび75%近くの老人ホームが民営だ。そしてその大多数が営利企業だ。

しかしコミューン法改正のときには、その改革の追跡調査をすることは決定されなかった。 子供と老人の問題を担当する大臣マリア・ラーションは、競争が質の向上につながると信じているが、事実調査が不足していることも認めている。

「老人福祉の質に関しては、統計が少しあるくらいで、ほとんどわかっていません。我々は状況の改善に努めています。」 しかし、統計からわかることもある。民営のホームは公営のホームよりも(要介護者に対して)10%職員の比率が少ない。そして時間単位で雇われている職員の数は民営ホームのほうが多い。

マルタ・セベヘリは、老人たちと良い関係を築き、愛情をもって接するためには、充分な職員数は非常に重要だと言う。時間単位の職員が増えることは、継続性の減少を意味する。国際的な研究によると、職員比率の減少は老人介護の劣化につながる。 「褥瘡(床ずれ)の数は、民営の施設のほうが多いのです。」 今日、スウェーデンの民営老人介護施設の半分は、国際的なベンチャー・キャピタルによって運営されており、スキャンダルを起こしている。アメリカでの研究によると、営利追求型の巨大介護チェーンが運営する介護施設のクオリティは低い。

「彼らは短期間で利益を上げることに傾注しています。これは介護の質にとっては問題です。」 老人問題担当大臣のマリア・ラーションは、2年前に導入された「選択の自由システムに関する法」のおかげで老人たちは選択の自由を手にしたのだと強調する。その法律を施行するコミューン内では、老人たちは、自分たちの好きな家庭サービスや住みたい老人ホームを選ぶことができる。

「どうして政治家が個々人にとって最善の決定ができると思うわけ? コミューンの独占が個々人の希望に応えられるわけ?」とマリア・ラーションは言う。

しかしマルタ・セベヘリによると、公営から民営の家庭サービスに替えた人はほんの一握りだ。2009年にそれを行った人は平均して4%で、そのうち5人に一人は<コミューン設立の>家庭サービス会社が閉鎖されたため変更を余儀なくされたのだ。

「民営化すれば介護の質が向上すると政治家たちは説いていますが、研究の結果からはそれは証明されていません」と彼女は語る。