Hanes fik

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【読書感想】ハンス・ロスリング自伝ーその1

原題:Hur jag lärde mig förstå världen
直訳:私はどうやって世界を理解してきたか
著者:Hans Rosling & Fanny Härgestam
出版年:2017年11月
ページ数:332

 世界的ベストセラーになった『Factfulness』は日本でも来年1月に刊行される予定だ。https://www.amazon.co.jp/dp/4822289605


 内容については、この方の書評が詳しい。

スウェーデン出身の医師・公衆衛生学者であるロスリングを有名にしたのはTEDでのトークだろう。統計を動かしながらハイテンションで「実況」するおっさん、と聞いてピンと来る人は、きっと彼を見たことがある(そんな学者は他にいないからだ)。

(太字は筆者)

 ロスリングは2017年に癌で亡くなった。死期を悟った彼は息子夫婦と『ファクトフルネス』を制作すると同時にジャーナリストのFanny Härgestamを招いて自伝を完成させた。それが『Hur jag lärde mig förstå världen(私はどうやって世界を理解してきたか)』である。


 この自伝には「動く統計」誕生秘話や、大学教授転じてedutainerとなった経過が紹介されている。

『ファクトフルネス』の大きな主張は、「世界は思ったより良い方向に進んでいる」ことと、「世界は『貧しい国』と『豊かな国』の二つに分断されているわけではない」ことの二つであろう。

 これらの主張はロスリングの大学教授としての教育活動で培われた。なぜなら、彼の公衆衛生学の授業には学生からの批判が大きかったからだ。

 1990年代の先進国の懸念は「人口爆発」と「環境破壊」だった。貧しい国の人口が増えれば野生動物の絶滅につながると考えられていた。それを防ぐためには、それらの国々の乳幼児死亡率は高いままのほうがよいと考える学生もいた。ロスリングは「動物より人間のことを先に考えよ。乳幼児死亡率を減らしてから、大人に対して避妊手段を導入することもできる」と学生に訴える。
 理解する学生もいるが、毎学期、彼に反論する学生が後を絶たなかった。一度など授業中に「動物のヒットラー!」と大声でなじられたこともある。

 世界をたった二つに分ける世界観も根強かった。
「私たち」と「彼ら」、「西」と「東」、「先進国」と「後進国」、もっとありていに言うと「ヨーロッパ(系)」と「非ヨーロッパ(系)」。
「彼らが私たちと同じ生活ができるわけがない」、「後進国が先進国に追いつけるわけがない」。

 ある乳幼児死亡率の国別比較テストの結果は、「ヨーロッパの国がアジアの国より劣っているわけがない」という学生たちの先入観を表していた。1999年当時すでに韓国はポーランドより、スリランカはトルコより、マレーシアはロシアより、はるかに乳幼児死亡率が低かったというのに。

 スウェーデンの教育の基本は対話だ。学生は手ごわい。そんな学生を相手にするうちに、ロスリングの「動く統計」はできあがった。(続く)

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