老舗出版社の Norstedts、新興 IT 企業 Storytel に買収される
2016年6月22日、オーディオブック配信会社 Storytel (ストーリーテル)がスウェーデンの大手出版社 Norstedts(ノーシュテッツ)の株を100%買収したと発表した。200年近い歴史を持つスウェーデン最古にして最大の出版社が、創業11年の新興デジタル書籍配信会社を所有者として迎えることになる。
Norstedts は1823年創業。『ミレニアム』シリーズの故スティーグ・ラーソンや、故アストリッド・リンドグレーン、そのほか文壇の重鎮や人気作家の作品を多数抱えている。
だが出版不況は同社にも押し寄せ、2014年には3200万クローナ(約4億円)の損失を出し、秋には従業員の5分の1を解雇した。2015年にはリストラ効果と、『ミレニアム4』や『フィフティ・シェイズ』シリーズなどのヒットに恵まれたため、数年ぶりに黒字に転じた。
同社の従業員、作家、そして同業他社も、今回の買収を好意的に捉えている。「出版界にとってよい刺激になる」「Norstedts には、まだデジタル化されていない作品の権利がたくさんある」「作品を発表するフォーマットが増えれば、文学はまた別の発展を見せるだろう」など。
今回の買収金額は1億5200万クローナと報じられている。大手出版社の値段が約18億円とは……実はノーシュテッツ自身の「売値」は6億クローナ(約73億円)だったらしい。Storytel(ストーリーテル)はあまりにも安い買い物をしたということで、すぐに同社の株価は跳ね上がった。
Storytel の創業は2005年。オーディオブックの Spotify あるいは Netflix と呼ばれ、今では北欧諸国のほかオランダ、ポーランドでも事業展開している。同業他社の買収を重ね、2015年にはスウェーデンの中堅出版社 Massolit も手中に収めた。3年前からは独自のオーディオブック製作も始めている。現在は電子書籍も扱っており、月額169クローナ(約2055円)で「聞き&読み放題」のサービスを提供している。
創業者・社長のJonas Tellander(ヨーナス・テランデル)氏は現在46歳。
2003年にニューヨークに出張にした際、初めて iPod を購入し、Audible 社のオーディオブックを機内で聞いた。その体験にほれこんだテランデルは、スイスの製薬会社でのキャリアを捨て、スウェーデンで事業を立ち上げる。
2005年から最初の5年間は順調とはいえなかった。技術的な面では携帯電話はインターネットにつながっていなかったし、リーマンショックによる世界金融危機も起こった。
そこで2009年、テランデルはTV番組『ドラゴンの巣』に登場し、資金援助を乞うという手に打って出た。この番組は日本の『マネーの虎』をモデルに作られたもので、テランデルは投資家のひとり Richard Båge の説得に成功し、会社の株の10%を100万クローナで購入してもらった。
これはBågeにとってはよい投資となった。現在のStorytelの企業価値は10億クローナを超えているからだ。
2010年以後は同社に追い風が吹いた。スマートフォンが爆発的に広まったこと、Spotify の成功により大衆が有料の配信サービスに慣れたことなどにより、Storytelの契約者数は増加し、収益は毎年倍増していった。
(Storytelの収益。単位は100万クローナ)
(ついでに調べてみたら、2015年の営業収益は約3億クローナだった。やはり前年の倍……)
Norstedts 買収後の計画を問われ、テランデルはこう答えている。
「紙の本の出版はもちろん続けるよ。現在の売上の8~9割は紙の本だからね」
「児童書の古典もデジタル化していきたい」
「将来ビッグになるのは電子書籍ではなくオーディオブックのほうだと僕は思っている。二、三百年前までは物語は口頭で伝えられるものだったんだ。技術革新のおかげで読み物が普及したけれど、今度はスマホの普及で、また状況が変わるかもしれないね」
参考資料:
Storytel, 2015-09-21(画像はすべてこの動画から引用)
2016-07-04時点で1クローナは12.16円。