Hanes fik

スウェーデン語の語源やら、読書のことやら、あれこれと。

人に恵まれている

『マインクラフト』を訳しながら思ったのは、 ノッチは事業に関しては人に恵まれているな、ということ。

スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグの話を読むと 自分が招いた経営陣に、自分が創った会社から追い出される エピソードが出てくる。 ジョブズはアップルから追放されたし、 フェイスブックの創業に貢献したショーン・パーカーも 社長をクビになった。

創業者は事業を拡大したい。そのためにはお金が要る。 だから投資家にお願いする。 しかし、金は出すが口は出さない、なんて人はまずいない。

創業者は特定の分野では優秀でも、経営のことはさっぱり わからない。だから外部から経営者を雇うのだが、 その人がとても野心家だったりすると…。

だから事業を拡大したあとには、社内での権力闘争が始まる。 会社を手放したくないザッカーバーグは、CEOの地位に留まれるように あれこれ腐心している。

その点、ノッチは恵まれている。会社設立前から自分のつくったゲームが 大金を稼ぎだしてくれるので、資金に関して他人に頭を下げる必要がない。 社長でも役員でも社員でも、自分の気に入った人を採用できる。

金銭に関してノッチがそれほど野心家ではないことも、 うまくいっている理由だろう。 社長は大企業の元経営者ではなく、かつての自分の雇い主だ。 非常に狭い範囲だが、自分の気に入った人を引っ張ってきている。

結果的にマインクラフト開発の後継者になったイェンスもそうだ。 インディーズ開発者の大会で知り合った彼を、設立後間もないモヤング社で 雇用している。 その大会〈ノーモア・スウェーデン〉にはペ〇〇だのステンチだの というタイトルの付いたゲームをつくって喜んでいる若造がいるが、 イェンスは一味違ったのだろう。 静かにゲーム開発に打ち込むような人なので、ノッチが気に入ったのでは ないだろうか。

要するに、ノッチは自分のような人を仲間に選んでいる。 「自分が自分が」と目立ちたがる人ではなく、内向的な、あるいは オタクっぽい人を選んでいる。 だからうまくいっているのかもしれない。

スウェーデン文化とアメリカ文化の違いも影響しているかもしれない。 スウェーデンには控えめで内向的な人が多いうえに、 問題は話し合いで解決すべきと考えられており、 裁判のような闘争的な姿勢は好まれない。 そもそも社会が狭いので、もめ事はなるべく起こしたくない。

アメリカでは、ザッカーバーグの元クラスメイトが アイデアを盗用されたと主張してフェイスブックを訴え、 和解で大金を手にしている。 なんだかな~である。

しかし、同じアメリカ人でもザッカリー・バースは違う。 アイデアを盗用されたとしてマインクラフトを訴えろと そそのかされても「ゲームの進化ってのはそんなもんだよ」 と応じない。 カッコイイ!!!

これは、コンピュータゲーム開発という独特な 業界文化のおかげかもしれない。

そんなこんなで、ノッチ君はかなり人に恵まれてきたと思うのだが、 いかがだろうか。