Hanes fik

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【読書感想】ふたりの姉妹ー少女たちはなぜシリアに向かったのか(1)

原題:To søstre(ノルウェー語)
直訳:ふたりの姉妹
著者:Åsne Seierstad(オースネ・セイエスタ)
出版年:2016年
ページ数:470 

 

著者は、2002年『カブールの本屋』が世界的ベストセラーになったノルウェーの女性ジャーナリスト Åsne Seierstad。

 

2013年10月、ノルウェーに住むソマリア系の若い女性、アヤーン(19歳)とレイラ(16歳)が忽然と姿を消した。やがて、シリアのラッカにいることがわかる。「イスラム国(ISIS)」を支援するために。戦士と結婚し、新たな戦士を生むために---。

あきらめられない父親のサディクは単身シリアへ飛ぶ。密航業者の助けを借りて、無事娘たちを救出することができるのか?

 

本書は470ページの大作で、登場人物や扱う事件も多い。後半は父親の冒険譚で、ISISに殺されかけたりする姿を、私はハラハラしながら追いかけた。

 

だが、私が一番興味を持ったのは、移民とはいえ、ノルウェーのような平和で男女平等意識が高い国で教育を受けてきた若い女性が、どうしてISISに加担するようになったのかという点だ。そして、変わっていく彼女たちに対してノルウェー社会、とくに学校はどう対応したのだろう?

 

結論からいうと、正確な理由はわからない。だが、姉妹がどのようにラディカル化していったのかを著者は残された資料や周囲へのインタビューから再現している。

 

姉妹の家族について。

父親はソマリアからの政治難民。サウジアラビアで教育を受けた。ドラムを叩き、詩人を自称するリベラルな人物だ。ソマリアから呼び寄せた妻との間に、アヤーン(第一子)とレイラの他に3人の息子がいる。仕事に就いたり傷病手当をもらったりの生活のようだが、福祉局が斡旋する大家族用アパートに住み、自家用車も持っている。それで家族を送り迎えする優しいパパだ。

母親のサラはノルウェーのソマリア社会で生きている。語学学校に通ったこともあるが、その目的はノルウェー語の習得ではない(つまり勉学手当)。

18歳のイズマエルはアヤーンの次に生まれた息子。ジムで体を鍛えることとコンピューター・ゲームが大好きな高校生。宗教には関心が薄い。

他の弟ふたりはまだ幼い。

 

姉妹は失踪直後に父親にメールを送った。そこには、一年以上かけて逃走計画を立てていたことが綴られていた。

「ムスリムが攻撃されているのを黙って見ているわけにはいかない。お金を送るだけでは不十分。だから私たちはシリアへ行って、直接同胞を助けたい。…」

 

娘たちが変わりはじめたのは失踪の2、3年ほど前からだと父は回想する。買い物から帰宅した娘たちが、ニカブを被って部屋から出てきたのだ。父には「動くテント」に見えた。

父「ニカブは宗教とは関係ない。文化だ。それもアラブの文化だ」
娘「でも、夏にソマリランドに帰ったとき、ニカブ被ってる人をいっぱい見たわよ!」
娘「(ここノルウェーで)外を歩いているときに男たちにジロジロ見られるのが嫌なの」
父「…でも家や学校ではぜったいに着るな!」

 

ノルウェーでは「身体を覆っている女は抑圧された女」とみなされていることを父は知っていた。


父の反対にもかかわらず、やがて姉妹は学校(中学校と高校)にまでニカブを被って出席するようになる。
(続く)

 

 

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